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人間の細かい差で認証する「生体認証」

……それでは講義を始める。
まずは前回のおさらいからだ。「所有物認証」として「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」の「シーカーストーン」、「水戸黄門」の「三つ葉葵の印籠」、「遠山の金さん」の「桜吹雪の刺青」を紹介した。いずれも個人が所有している「鍵」となる物体が認証のキモとなるものだった。
さて、今回は「生体認証」だ。人間はすべて千差万別の特徴を持っている。それを利用し、例えば「顔」や「声」、または「指紋」や「虹彩」のような、双子であっても全く別の形をもつ部分を使って個人を識別し、認証する。「『誰か』あるいは『何か』が、特定のものであることを確認する行為や仕組み」としては、かなり良くできた仕組みではないだろうか。
君たちが最も慣れ親しんでいるのは、一部のスマートフォンにある「指紋認証」だろうか。同様のシーンは当然架空世界にも登場する。
まず手始めに紹介する架空世界はアニメ「東のエデン」だ。

「ノブレスオブリージュ、今後も救世主たらんことを」

まずは基本データから。
2009年4月からフジテレビ系深夜で放送されたアニメーションで、原作と監督は「攻殻機動隊 Stand Alone Complex」などを監督した神山健治。記憶喪失の青年、滝沢朗が82億円分の電子マネーの入った「ノブレス携帯」という携帯電話を持たされ、同じ「ノブレス携帯」を持つ12人の「セレソン」と「セレソンゲーム」という、「日本を救う」ための、負ければ死の待つゲームへ巻き込まれていく……、といったストーリーだ。
ちょっと昔の作品にはなるが、NetflixHuludアニメストアなどで配信されている。近未来ものが好きな方や、どう転がるかわからない展開にドキドキしたい人にはぜひオススメしたい。
さて、主人公滝沢朗が持っている「ノブレス携帯」、82億円もの電子マネーが入っており、電話一本でその使用も可能という非常に便利な携帯電話なのだが、もちろん他人に使用されるリスクがある。そのため、「ノブレス携帯」には指紋認証のセキュリティがかけられている。2009年といえばiPhone 3GSが新発売の時期であり、一般のケータイには指紋認証は普及していなかったことを考えるとかなり先進的だったといえよう。
ところで、「グミ指」(※1)などで指紋認証を突破してしまえばよいではないか? と考える諸君もいるかもしれない。しかし、この「ノブレス携帯」の使用方法はちょっと変わっている。音声通話で「ジュイス」と呼ばれるコンシェルジュと会話し、電子マネーを使用するのだ。当然「ジュイス」は声色で喋っているのが滝沢本人かどうかわかるだろうから、他人が奪っても使用するのは難しいだろう。「声紋認証」も併用していると想像できる。
ちなみにコンシェルジュ「ジュイス」は通話を終える際、毎回セレソンとしての義務を思い出させる一言を言ってくる。「ノブリスオブリージュ」(高貴さは義務を強制する)だ。このセリフに加えて、たまに皮肉な一言まで言ってくる「ジュイス」、タダ者ではない。

※1……グミ指とは、指紋を写し取ったグミを作る手法のこと。グミとは食べ物のグミのことだ。全ての指紋認証デバイスに通用するわけではないものの、現在の民生用であればほぼ突破できると言われている。

指紋以外を利用した生体認証

話が逸れてしまった。生体認証は何も指紋認証だけではない。そのほかの生体認証と、それが登場する架空世界も手短に紹介していこう。
まずは「顔認証」から。最近の「Surface」などのWindows PCや一部のスマートフォンでは、付属のカメラで顔を判別してログインできるものがあるが、それと同様の原理だ。この顔認証、双子でも区別できるものもあるくらいなので、他人がなりすますのは難しい……と思ったが、なんと顔を手術で入れ替えるという無茶苦茶をやってのけた架空世界があった。
ジョン・ウー監督が1997年に制作した「フェイス/オフ」という映画だ。ニコラス・ケイジとジョン・トラボルタが顔を入れ替えたという設定で芝居をする。
ちなみに両者とも相手のふるまいをVTRで見て叩き込んだ、なんてエピソードもある。古い映画だがこちらも定額配信サービスで配信されているので、一度見てみてはいかがだろうか。
次は「虹彩認証」だ。人間の瞳の奥にある「虹彩」と呼ばれる部分は、一人一人違う特徴を持っていることを利用した認証だ。さすがに目をくり抜くのはないだろう……と思ったら、そんな架空世界も存在した。ロン・ハワード監督で2009年に公開された映画「天使と悪魔」だ。
冒頭、素粒子加速器で得られた反物質が何者かに奪われるシーンがあるが、ここでは目をくり抜かれて虹彩認証を突破されていたのだ。実際のところ、くりぬいた人間の目を使って認証を突破できるかどうかは疑問の残るところだが……。
余談だが、定額配信サービスではこの種の映画がだいたい揃っており、ちょっと確認したいと思ったシーンをすぐに再生できる。架空世界好きにはたまらないサービスだろう。今後もちょくちょく紹介して行きたいと思うので、見たことがない諸君は一度チェックしてみてくれたまえ。

「後付け」の生体情報での認証

ここまでに紹介したものは、生まれつきで持っている生体情報で認証する例だ。
それらとは異なり、前回紹介した「遠山の金さん」の「桜吹雪の刺青」のように、生体認証を後付けするという事例があるので紹介しよう。ゲーム「メタルギアソリッド」シリーズだ。
1987年に発売されたMSX2パソコン用ゲーム「メタルギア」を発端とし、1998年にはPlayStation用ゲーム「メタルギアソリッド」として3D潜入ゲームの大傑作として広くプレイされるようになった。その後もシリーズは5作品続いている。
「メタルギアソリッド」シリーズは、概ね「ソリッドスネーク」とその父親である「ネイキッドスネーク」が主人公として活躍するが、今回取り上げるのはソリッドスネークが任務中に注入された「ナノマシン」だ。
ナノマシンとは分子機械の一種で、ウィルス程度の大きさを持つ。ウィルスが健康を害するものであるのとは逆に、宿主の身体機能を向上させる。さらには体内に通信機能まで持つことができるのだ。このナノマシンはシリーズ中でももっとも重要な要素として度々登場する。詳しくはプレイしてその目で確かめて見てほしい。
このナノマシンの機能のひとつに、近距離無線通信(NFC)により認証できた扉を自動的に開くという能力がある。所有物認証のように他人に奪われることもなく、知識認証のように記憶したり、パスワード入力作業をしたりする必要もない究極の認証ではあるが、ゲーム内では対応したドアのセキュリティカードをいちいち入手しないといけないというトホホなオチがついている。それならナノマシン通信を使わなくても良いのでは……?とは思うが、ナノマシンが注入された兵士の中でもセキュリティカードを持っている者だけが開けるという「2要素認証」なのかもしれない。2要素認証については、今後の講義で紹介しようと思う。

ついに現実にも登場した「後付け生体認証」

「メタルギアソリッド」のような高機能なナノマシンはまだ開発されていないが、体内に埋め込むことで認証ができる「マイクロチップ」は現実にも登場している。
先日、米国の自販機用ソフトウェアメーカーが、希望する社員の手にマイクロチップを埋め込み、埋め込んだ手で自販機の代金の支払いやドアの開閉が行えるようにしたとのニュースがあった。
ただ、「メタルギアソリッド」のナノマシンと比較すると相当大きいし、健康被害などの問題もありそうだ。そもそも「メタルギアソリッド」でも様々な健康被害が……おっと、これ以上はネタバレ自粛だ。とにかく、後付けの生体認証は決して夢物語ではなく、ちょっと先の未来では君たちも使っている可能性が高いことを覚えておいてほしい。

生体認証は万能か? 架空世界の想像の羽根はもっと広がる

さて、今回は生体認証が登場する架空世界を紹介してきた。
実際の生体認証は「グミ指」のように偽装する手段があることや、「形の一致率的にほぼ本人だろう」という、高精度ではあるものの確実ではない仕組みなため、万能とは言えない。
また、現実世界では生体情報は個人情報の最たるものなので、規律や倫理といった問題も発生するだろう。
認証技術は今後も発達していくだろうが、「フェイス/オフ」に登場する顔を入れ替える手術のような、突破するための手段も同様に発達していくことも念頭に置く必要がある。

では、それすらも飛び越えた究極の認証方法はないのだろうか……?
実は、先ほど取り上げた「メタルギアソリッド」の物語中でも登場する「遺伝子」を使った認証や、「精神感応」を応用した認証など、現実世界では実現していないものも架空世界には登場する。次回はそうした「次世代」の、もしくは「伝説的」な認証を取り上げよう。では、今日はここまで!

【著者プロフィール】

朽木 海 (フリーライター、編集者)
主にITとゲームのあれこれを請け負うライター。前職は某ゲーム会社でいろんなゲームを作ったり、公式Twitter担当をしたりしていました。現在勉強中のテーマはブロックチェーンとマストドン。「ドラクエXI」、3DSで一周しました。次はPS4で頑張ります。

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