>「架空世界 認証セキュリティセミナー」記事一覧

現実では未だ実現していない認証たち

……それでは講義を始める。
まずは前回のおさらいからだ。「生体認証」として「東のエデン」、「フェイス/オフ」、「天使と悪魔」、そして「メタルギアソリッド」シリーズを紹介した。いずれも身体の特徴を鍵として認証するものだった。
さて、今回は想像の翼を広げて、現在の技術では実現していない、あるいは伝説的な認証について紹介していこう。
現在の技術で実現していない認証といってもいろいろあるだろう。例えば「精神感応」や「血筋」、あるいは「魂の形」を認証する……。どうやって実現すればいいのかわからないものばかりだ。
ただ、架空世界ではそれなりに登場するモチーフであることは間違いがない。その中でも今回は特徴的なものを紹介していこう。
最初に紹介する架空世界は「新世紀エヴァンゲリオン」だ。

「シンクロ率安定、ハーモニクスすべて正常値」

まずは基本データから、といってもご存知の諸君も多いだろう。1995年から放映されたテレビアニメ作品で、その後映画化。2006年からは新たな設定で「リビルド」された新劇場版が順次上映されている。
14歳の少年である碇シンジが、汎用人型決戦兵器・人造人間エヴァンゲリオンに乗り込んで謎の敵「使徒」と戦う……というのが大まかなストーリーだ。
実を言うと、この一連の講義を引き受ける際の打ち合わせで最初に出てきたのが、この「新世紀エヴァンゲリオン」だった。担当者曰く「エヴァは遺伝子認証ではないですかね?」とのことだったが、私は違うと思っている。
まず、汎用人型決戦兵器・人造人間エヴァンゲリオンについて簡単に解説しよう。
機械的なロボットのように見えるが、その名の通り巨大な人造人間である。ロボティクスを応用した外部装甲を装着しているため、機械的な外見に見えるだけである。
ただ、基本的に単独で行動することはできず、パイロットを必要とする。パイロットとはA10神経という実在するドーパミン神経系を介して接続され、「シンクロ率」が一定に達すると起動するようになっている。
ここからは若干のネタバレだが、エヴァのパイロットは基本的に母親のいない14歳の少年少女が選ばれている。これは、エヴァの魂がその母親のものであることに起因するためだ。
つまり、パイロットが母親を、母親がパイロットを受け入れるかどうかが起動の鍵となっている。一種の「精神感応認証」といっていいだろう。
当然、エヴァがパイロットを受け入れれば起動するので、この認証にはいろいろと回避策がある。
その代表的な存在が「ダミープラグ」だ。パイロットはエントリープラグという細長いカプセル状のものを介してエヴァに搭乗するのだが、このエントリープラグには無人のものが存在する。パイロットの魂の形を生体コンピュータにコピーし、エントリープラグ内に搭載することで、無人での運用を可能とするテクノロジーだ。実際のところ少年少女を搭乗させないで済む分、こちらの方が人道的ではあるし、そのような意図を持って開発されたものと推測される。
また、一部の登場人物(?)は、自分に割り当てられたエヴァだけでなく、他のエヴァともシンクロ率を上げることができ、搭乗が可能となる。ここは核心に近いネタバレなので詳細は伏せるが、「精神感応認証」にも穴があることはわかっていただけただろうか。
ちなみにエヴァはテレビアニメ版の旧作と、「リビルド」された新劇場版では差異が存在する。もしかすると新劇場版では上記の説明が成り立たなくなるようなことになるかもしれないが、その際はご容赦を。

伝奇要素満載のロボットアニメ

では、遺伝子……というか、「血筋」が認証の鍵となる架空世界はないのか?
次に紹介するのは「勇者ライディーン」だ。1975年から放映されたテレビアニメ作品で、監督は富野喜幸(現・富野由悠季)、キャラクターデザインは安彦良和という、のちに「機動戦士ガンダム」を生み出すスタッフが作った作品だ。
12,000年前にムー帝国を襲った妖魔帝国が現代に蘇り、考古学者の祖父と父をもつ主人公「ひびき洸」が、古代ムー帝国が作り上げたロボット「ライディーン」に乗り込んで戦うというのが大まかなストーリーだ。主題歌の「フェードイン、フェードイン」という歌詞を覚えている諸君もいるのではないか?
ひびき洸がなぜライディーンに乗れるのかというと、古代ムー帝国の末裔であるからという理由づけがされていた。なんと、母親「ひびき玲子」の正体はムー帝国の王ラ・ムーの娘「レムリア」。つまりこれは「血筋認証」だ。一種の「遺伝子認証」とも言えるかもしれない。
残念ながらこうした一連の伝奇的設定はテレビ局側からは不評で、富野喜幸は責任をとり前半で監督を降板してしまう。その後、長浜忠夫が監督を引き継いだが、作品としては好評を博し、その後のムー帝国の伏線も回収されている。現在はバンダイチャンネルで配信されているので、気になる諸君は一見をお勧めしたい。
余談だが、あのYMOの代表曲「Rydeen」も「勇者ライディーン」から命名されたという話がある。どうやら米国でも「勇者ライディーン」が流行していたからそれにあやかったようだ。

岩から剣を引き抜いた力は何か?

最後に紹介する架空世界は「アーサー王物語」(※1)。
日本ではアーサー王を女性化したり、百万人ものアーサー王を生み出したりして、ただでさえ多い本家のバリエーションにも勝る、さまざまなバリエーションを作り出しているので、ご存知の方も多いだろう。
さて、アーサー王といえば、岩に刺さった剣を引き抜いたことで王となったというエピソードは最も知られたものだろう。このエピソードは王の血筋の証明であったという説が主流となっている。これは「血筋認証」の一種と言えるだろう。
なお、この剣は日本では一般的に「エクスカリバー」として知られているが、本家では「エクスカリバー」と岩に刺さった剣は別物とする解釈の方が多いようだ。「エクスカリバー」は松明100本を束ねたよりも明るい光を放つ……なんて話も伝わっている。Fateシリーズに登場する「約束された勝利の剣(エクスカリバー)」はビーム砲のような光を放つが、あれもあながち間違いでもないのかもしれない。
さて、本題に戻ろう。これは私個人が思っている説だが、王を名乗るものには馬鹿力が必要で、力任せに引き抜くことができる人間なら王であるという、「力任せ認証」を後からストーリー化した可能性もあると考えている。まあ、先に述べたように「アーサー王物語」にはバリエーションが多いため、実際のところは謎ではあるが……。
余談だが、この「岩に刺さった剣を引き抜く」というモチーフは他の架空世界でもたびたび登場する。前々回に紹介した「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」でも、マスターソードを岩から抜くというシチュエーションがある。ここではハートのうつわ(体力)が一定以上ないと引き抜けないという設定になっていた。これも「力任せ認証」の一種だろう。

※1:リンク先は2017年に日本公開となった映画「キング・アーサー」公式サイトです。この映画のアーサーを、イラストにある剣を引き抜いた時のアーサーのモデルとして参考とさせていただきました。

精神の特徴や遺伝子情報による認証の相続は現実化する?

さて、今回は現実では存在しない、あるいは存在し得ないような認証を紹介した。ちょっと飛躍しすぎだっただろうか。
しかし、科学の進歩というのは足早なものなので、例えばエヴァに登場するような精神の動きを感知して行う認証は将来的に実現するのかもしれない。
また、血筋というとあいまいな生体情報だが、遺伝子であれば確実な生体情報として認証に利用できる時が来るのは現実的に思える。

さて、次回だが、ちょっと趣向を変えて架空世界での「乗っ取り・なりすまし」について注目してみたいと思う。では今日はここまで!

【著者プロフィール】

朽木 海(フリーライター、編集者)
主にITとゲームのあれこれを請け負うライター。前職は某ゲーム会社でいろんなゲームを作ったり、公式Twitter担当をしたりしていました。現在勉強中のテーマはブロックチェーンとマストドン。ドラクエXIでは世界を救わず、マジスロに通い詰めています……。

>前回記事:第3回「架空世界で生体認証」
>「架空世界 認証セキュリティセミナー」記事一覧
>認証の基礎知識について:「認証」の基礎知識(1):日常にあふれる「認証」