一つの架空世界に絞って認証を考える

……それでは講義を始める。
前回は一つの架空世界に絞って認証の考察を行うということで「ミッション:インポッシブル」シリーズを見ていった。さすがスパイモノ、多要素認証の事例も出てきて非常に興味深かったかと思う。また、様々な生体認証の事例も紹介した。

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さて、今回も引き続き一つの架空世界に絞って認証の考察を行いたい。舞台となるのは「鉄人28号」だ。

多数のメディアミックスが存在する鉄人

まずは基本データから。1956年に月刊「少年」で連載開始された横山光輝の漫画作品で、その後アニメ化が繰り返され、実写映画にもなっている。
オリジナルのストーリーは、太平洋戦争末期に大日本帝国軍が起死回生の秘密兵器として製作していた巨大ロボット「鉄人28号」と、操縦者の少年「金田正太郎」を巡る物語だ。
多数のメディアミックス作品が存在し、設定もバラバラな「鉄人28号」だが、今回は整理して3つの作品について見ていきたい。まずは2004年に今川泰宏監督がアニメ化して大好評だった「鉄人28号」、そして1980年に今沢哲男監督がアニメ化した「太陽の使者 鉄人28号」、最後に1992年に横山光輝も関与して制作された「超電動ロボ 鉄人28号FX」。この順番で紹介していきたいと思う。

「いいも悪いもリモコン次第」

2004年版「鉄人28号」、通称「今川版鉄人」は、「ジャイアントロボ THE ANIMATION –地球が静止する日」などを監督した今川泰宏監督のテレビアニメ。今川監督は「鉄人28号とガロを好む少年だった」と言うだけあり、「今川版鉄人」は原作の雰囲気を最大限に再現した作品となっている。
第二次大戦末期、大日本帝国軍は決定的な兵士不足に悩まされていた。そこで考えられたのが不死身の兵士を作り出す「鉄人計画」。天才科学者「金田博士」が南洋の陸軍秘密研究所で鉄人たちを作り上げていた。そんな中、秘密研究所は米軍の空襲を受け壊滅。鉄人も全て壊滅したかと思われていたが……。
その10年後、南方から巨大な砲弾が東京に落下。少年探偵として成長していた金田博士の息子「正太郎」はギャング「村雨一家」を追い詰めていたが、そこに砲弾が落下してくる。しかしそれは「鉄人28号」だった……。というのが概ねのストーリーだ。
昭和30年代、「もはや戦後ではない」と言われた高度成長期の最中に突然現れる戦争の闇と、時代に取り残されたものたちの戦いが見どころの1作だ。
さて、「今川版鉄人」に登場する「鉄人28号」だが、概ね原作を踏襲している。つまり、操縦は操縦器(※1)で行うようになっている。鉄人はある程度の自律思考も行えるが、多様な判断が必要な任務中は操縦者の操作を必要とする。操縦器からは目視で見える範囲でなくてはならないという制約も存在する。

この操縦器だが、認証方法はあったのだろうか。

……結論からいえば、全く存在しない。鉄人システム全体から見れば、操縦器が所有物認証ではあるのだが、操縦器には認証がかけられていないので、オープニングテーマ曲の歌詞にもあるような「いいも悪いもリモコン次第」が発生しうる。つまり、操縦器が悪い人間の手に渡ってしまうと、鉄人はたちまち悪のロボットになってしまうのだ。
作品中にもそうしたエピソードは存在する。第六回「奪われた操縦機」では敵であるスリルサスペンスと村雨健次の計略にハマり、正太郎は操縦器を奪われてしまう。第七回「悪の手先鉄人暴れる」では実際にスリルサスペンスたちが鉄人を操り、悪の限りを尽くすのだが……。どうやって正太郎が取り戻すのかが見どころだ。
※1:リモコンの表記には作品ごとにブレが存在するが、本稿では基本的に「操縦器」としていく。

太陽エネルギーを守る鉄人の認証は?

次に紹介するのは「太陽の使者 鉄人28号」。1990年代、太陽エネルギーをメインのエネルギー源として活用していた時代の話になっている。正太郎はインターポールのメンバー、鉄人も「将来の犯罪に備えて作られた兵器」となっており、原作とは趣が異なることがわかるだろう。
操縦器はアタッシュケースにアンテナが付いたような形の「ビジョンコントローラー」。2つの操縦桿とモニターが付いている。正太郎は最初操作に戸惑うこともあったが、すぐに慣れて自在に操縦できるようになった。
さて、この「ビジョンコントローラー」の認証だが……、なんと、「今川版鉄人」と同様、なんら認証が付いていない!
戦中の兵器だったらともかくも、1990年代の兵器に認証が全く付いていないのはいただけない。しかも第2話でこの「ビジョンコントローラー」を奪われてしまう事態となる。鉄人の開発者、金田博士はもうちょっとこの辺りに気をつけて開発した方が良いのではないだろうか……。

原作の続編である「FX」では改善点が。しかし……

それでは「超電動ロボ 鉄人28号FX」ではどうなっているだろうか。時代設定は21世紀。しかも原作の直接の続編と位置付けられ、原作者の横山光輝も関与している作品だ。初代の鉄人は「伝説のロボット」という位置付けになっているが、成長した正太郎と共に作品中にも度々登場する。
「FX」では多数のロボットが登場するが、いずれも鉄人同様に乗り込まずに操縦器で操縦する形態をとっている。「鉄人28号FX」の操縦器は「グリッドランサー」と呼ばれる光線銃型をとっており、これにはなんと認証がついている。
コントロールパネルで簡単なパスワードを入力し(知識認証)、その後音声入力で命令するという寸法だ。鉄人28号FXを作ったのは正太郎の妻、陽子であるため、弱点もよくわかっていたと推測される。一方で、1話でネオ・ブラック団に接収されたロボットたちは操縦器を奪われ、いいように使われる描写もある。この時代も認証は一般的ではなかったのだろうか。
ところが、第2話でネオ・ブラック団の計略にかかり、グリッドランサーを奪われてしまう事件が発生する。この時、ネオ・ブラック団のデビル火刀は鉄人を起動させることに成功し、街を破壊する悪のロボットになってしまう。簡単なパスワードを設定していたのだろうか……?
結局「いいも悪いもリモコン次第」なところはあまり変わらないようだ。

鉄人28号の改善点は?

では、鉄人にはどのような認証が必要だろうか。
主に音声入力をインターフェイスとするのであるから、まず声紋認証はあって良いだろう。ただし、前回の「ミッション:インポッシブル」の時にも紹介したが、声紋認証は完璧ではなく、起動時の本人認証に用いるには心許ない。
では、起動時にはどのような認証を用いるのが効果的だろうか?
鉄人は兵器であり、「急な敵襲に出動する」という状況が予想される。そのため、できるだけ早急に認証が完了する方法が望ましい。現代と同レベルの技術があれば、顔認証や指紋認証は十分な速度で認証が可能だ。虹彩認証も最近ではだいぶ速くなっている。
しかし、生体認証が発達していない時代と考えると、ICカードのような鍵となるものを使用する所有物認証が良いだろう。さらに、所有物認証だけだとその鍵も操縦器と一緒に盗まれてしまう危険性があるため、4ケタの暗証番号のような簡単な知識認証と組み合わせで「多要素認証」としておきたい。当然、暗証番号は何回か間違うとロックされるようにしておく。
「いいも悪いもリモコン次第」という話のギミックを壊してしまうのは忍びないが、安心・安全を目指すなら、ぜひ一考いただきたい。

ライバルロボ・ブラックオックスはどうなのか?

一方、「鉄人28号」に度々登場するライバルロボ「ブラックオックス」はどうなっているのか。
「鉄人より強く、モノを考えるロボット」として不乱拳(ふらんけん)博士が開発したロボットだが、これは完全自律式のAIにより動いている。一応腕時計型の小型操縦器で簡単な指示を与えることが可能だが、自律思考が基本なのは変わらない。
認証に関しては鉄人とさほど変わらないようなのだが、自律思考することで他の操縦者の異常な操作を受け付けないところが強みだ。
鉄人よりもパワーは上であり、度々鉄人を苦しめることになる。鉄人も自律思考型の方がよかったのでは……? と思うが、毎回操縦者の機転によりブラックオックスは敗れている。やはり、人間の機転と鉄人のパワーの総合力の方が勝るようだ。
ただ、現代では学習型AIが発達してきていることはニュースなどでご存知のことだと思う。いつか人間を超える日が来るかもしれない。また、限られた状況であれば、操縦者が近くにいなくても良いという運用上の利点からも、ブラックオックスのような自律思考ロボットのほうが優れている場合もあるだろう。

世界を守るロボットにはぜひ認証を!

今回は「鉄人28号」の認証について紹介してきた。結局、操縦器による「所有物認証」のみで、操縦器自体を奪われてしまうことに対する対策はほとんど取られていないという残念な結果となった。こうしたことのないよう、今後の鉄人(?)にはぜひ認証を取り入れてほしいと願っている。それがお話として面白いかどうかはともかく……。
ところで、他のロボットモノでは操縦者の認証はどうなっているのだろうか……?
エヴァンゲリオンやパトレイバーは以前に紹介しているが、特にリアルロボットものについては気になるところだ。

というわけで次回はロボットアニメ制作において最有力と言っても良い制作会社「サンライズ」の作品を題材に、認証について解説していきたいと思う。お楽しみに。
それでは本日はここまで!

【著者プロフィール】

朽木 海(フリーライター、編集者)
主にITとゲームのあれこれを請け負うライター。前職は某ゲーム会社でいろんなゲームを作ったり、公式Twitter担当をしたりしていました。現在勉強中のテーマはブロックチェーンとマストドン。秋のゲーム発売ラッシュ、どれを買おうか悩みますね……!

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