ロボットアニメの雄、サンライズ

……それでは講義を始める。
前回は、「鉄人28号」シリーズにおける認証について考察した。どの世代の鉄人28号も操縦器に認証はかかっていないか、かかっていても簡単なものしかなく、「いいも悪いもリモコン次第」となってしまうという、認証セキュリティ的には残念な結果だったが、ストーリー的にはそこが見どころといったところだろう。
また、自律式AIロボット「ブラックオックス」についても考察した。鉄人28号との対比も科学的なテーマとなっていた点が面白い。詳しくは前回の記事を参照してほしい。

>「架空世界 認証セキュリティセミナー」記事一覧

では、他のロボット、特にリアルロボット系のアニメではどうなのだろうか。
今回はアニメ制作会社「サンライズ」のロボットアニメを3つ取り上げ、登場する認証について考察していこうと思う。

原作ものが獲得できず玩具タイアップへ

まずは基本データから。1972年、経営難に陥った旧虫プロダクションから独立する形で「有限会社サンライズスタジオ」として起業。その後、1976年に東北新社傘下から離脱し「株式会社日本サンライズ」となった。
翌1977年、初の自社企画アニメ「無敵超人ザンボット3」を、富野喜幸(現富野由悠季)を総監督として製作。その後は1987年に「株式会社サンライズ」と改称。1994年には玩具で縁の深かったバンダイ傘下へ。現在もバンダイナムコホールディングス傘下としてアニメ製作を続けている。
サンライズの歴史で一番のポイントは、創業当初、漫画原作の翻案権を取得する費用が捻出できず、玩具メーカーとのタイアップによるオリジナルのロボットアニメ製作に舵を切ったところだろう。これが「サンライズといえばロボットアニメ」と言われる元となったのである。
さて、サンライズのロボットアニメといえば誰でも一番に思い浮かぶ作品から、認証について考察していこう。その作品とはもちろん「機動戦士ガンダム」だ。

リアルロボットの祖とも言えるガンダム

1979年に最初の放送が始まった「機動戦士ガンダム」。あらすじをご存知の方も多いとは思うが、一応説明しておこう。
スペースコロニーへの移民が進んだ未来。スペースコロニー・サイド3は「ジオン公国」と名乗り、地球連邦政府に宣戦布告する。圧倒的な地球連邦軍の戦力に対し、ジオン側は電波障害を引き起こしレーダーや誘導兵器を無効化するミノフスキー粒子と、ミノフスキー粒子散布下で極めて効果的な人型機動兵器「モビルスーツ」を実戦投入。これにより戦争は膠着状態に陥る。地球連邦政府は戦局打開の切り札として「V作戦」を発動。スペースコロニー・サイド7にて新たなモビルスーツを建造していた。
ジオン軍のシャア・アズナブル少佐が地球連邦軍の新造艦「ホワイトベース」を追ってサイド7へ潜入したところ、このモビルスーツ建造基地を発見。偶発的に戦闘状態となってしまう。その混乱の中、サイド7在住の民間人、アムロ・レイが新型モビルスーツを見つけ、操作したところ起動してしまい……。
今回、いつになくあらすじが長いのだが、ここがポイントでもある。ガンダム以前にこんなに複雑な設定が存在するロボットアニメはほぼ存在しなかった。これがリアルロボットの祖とも言えるガンダムの画期的なところなのである。
さて、本題だ。モビルスーツ・RX-78「ガンダム」には認証があったのだろうか。
これは第1話のアムロの初搭乗シーンで容易に判明する。開発者テム・レイの息子ではあるが、本人は全くの民間人であるアムロが、偶発的に見つけたガンダムに搭乗して、置いてあったマニュアルを見ながら少しいじると起動してしまう……。そう、最初のガンダムには認証は全く存在していないのだ。
これは正式配備前で、認証が未設定だったという可能性も考えられるが、物語が進むと、ガンダムをアムロ以外の者が乗って逃げてしまうエピソードも存在する。認証があったとしても、簡単に破られるものしか存在しなかったのか、逃亡者がなんらかの手段でアムロから認証情報を手に入れた(盗んだ)のだろう。
一応、地球連邦軍の切り札と銘打って開発されていたモビルスーツなのだが、それで良かったのだろうか……?
または、認証情報の運用管理体制に問題があったのか、物語には描かれてはいないが逃亡者がなんらかのソーシャルハッキング(※1)を用いたのか……。

※1:人間の行動や心理の隙につけ込んで、個人情報や認証情報などの秘密情報を入手すること

光ディスクによる所有物認証のあるパトレイバー

では、次の例を見ていこう。題材は以前も紹介した「機動警察パトレイバー」だ。主要スタッフは以前紹介した通り「ヘッドギア」だが、テレビアニメ版の制作はサンライズが担当している。
より現代的な、警察による運用機材なのだから認証がないと非常に困ったことになるが、どうだろうか。
主役となるレイバー、篠原重工98式AV「イングラム」を考察すると、いくつかの認証機構があるように見受けられる。まず、レイバーシステム全般に言えることなのだが、OSの入った起動用の光ディスクがないと起動しないようになっている。これは当然「所有物認証」と言えるだろう。
また、この光ディスクには操縦者の操縦の「くせ」などを記録した学習データが記録されており、これがないと性能を発揮できない。実際、この光ディスクに記録された学習データを狙った犯罪というのも作品中に登場している。
さらに、明確な描写はないが、おそらくパスワードによる「知識認証」も存在するだろう。以前取り上げたHOSにマスターパスワードがかかっていた描写からも推測できる。「所有物認証」と「知識認証」による2要素認証、これが成立していれば警察の使用機材としてはまずまず合格点をあげられるのではないだろうか。
では、ライバルのレイバーについてはどうか。「黒いレイバー」こと、シャフトエンタープライズTYPE-J9「グリフォン」は、一般的なレイバーと異なり、「ASURA」と呼ばれる独自のOSで動いている。また、その性能は当時の最新鋭機「イングラム」をも圧倒するほどだ。
さて、その「グリフォン」の認証システムだが、どうやら操縦者であるバドリナート・ハルチャンドの虹彩を読み取っている描写がある。おそらく「生体認証」が用いられていると推測される。この辺りもワンオフのレイバー、ワンオフのOSを持った機体らしいところである。

「コードギアス」のナイトメアフレームも2要素認証

もう少し新しい作品も見てみよう。2017年10月から総集編である劇場版が上映されている「コードギアス 反逆のルルーシュ」だ。
まずは基本データから。谷口悟朗監督CLAMPのキャラクター原案で話題となったダークSF。
超大国「ブリタニア」に占領されたかつての日本、「エリア11」で暮らしてきた少年ルルーシュ・ランペルージがとある事件に巻き込まれ、「ギアス」という他人を従える王の力を持つことでブリタニア帝国に対して戦いを挑むというストーリーだ。
本作品に登場するロボットは「ナイトメアフレーム」と呼ばれる。ブリタニア軍が日本侵攻の際に使用したのが最初で、リアルロボットとしては小型の4〜6m程度のサイズとなっている(※2)。パトレイバーの98式AV「イングラム」が全長約8mなので、より小ぶりであることがわかるはずだ。
さて、認証機構はどうなっているだろうか。第2話でルルーシュがギアスの力を使い、ナイトメアフレームを奪取するところでその仕組みが判明する。ギアスの力で自動車の鍵のような「所有物認証」を奪い、さらに「ナンバー」と呼ばれるパスワード、すなわち「知識認証」を聞き出しているのだ。通常ならば2要素認証がそろっていれば十分なセキュリティと言えるが、さすがに超常能力「ギアス」の存在までは考慮できなかったようだ。

※2:ナイトメアフレームは設定上4m程度のサイズなのだが、これだと人間が搭乗することができないため、作画上は6m程度のサイズで描かれたという事情があるようだ。

ちなみに本作品には他に「ナイトギガフォートレス」という非人型機動兵器も登場するが、これはパイロットと神経電位接続を行っているため、おそらく生体認証と推測される。この辺りも注目のポイントだ。

時代に合わせて認証もリアリティが増している

以上、サンライズの代表的な3作品について見てきた。
さすがにファーストガンダムは古すぎたのか、認証の概念が描かれていなかったが、その後の作品では認証について描かれていたことがわかるだろう。
今回は触れられなかったが、「装甲騎兵ボトムズ」や「蒼き流星SPTレイズナー」、「ガサラキ」といった高橋良輔監督作品も独特のリアリティを持っているので、興味を持った諸君は認証ネタを探して見てみるのも良いかもしれない。

さて、次回はちょっと趣向を変えて「架空世界に登場する電子マネー」について取り上げたいと思う。
現代の日本でも徐々に使われるようになった電子マネーだが、架空世界ではどのような描かれ方をしているだろうか……? お楽しみに。
それでは本日はここまで!

【著者プロフィール】

朽木 海(フリーライター、編集者)
主にITとゲームのあれこれを請け負うライター。前職は某ゲーム会社でいろんなゲームを作ったり、公式Twitter担当をしたりしていました。現在勉強中のテーマはブロックチェーンとマストドン。5年ぶりにiMacを買い換えました。Retinaはいいのですが、目が悪くてあまり恩恵を受けられない……。

>前回記事:架空世界 認証セキュリティセミナー 第7回「鉄人28号の操縦器(リモコン)認証」
>「架空世界 認証セキュリティセミナー」記事一覧
>認証の基礎知識について:「認証」の基礎知識(1):日常にあふれる「認証」