電子マネーや仮想通貨を考察する

……それでは講義を始める。
前回はアニメ制作会社「サンライズ」のリアルロボット作品を3作品取り上げて、各ロボットの認証がどうなっているか考察した。時代を経て認証は順当に進化しているが、「コードギアス」のように超常現象には対処できないという弱点(?)もあったことは興味深い。詳しくは前回の記事を参照して欲しい。

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さて、今回はちょっと趣向を変えて「電子マネー」や「仮想通貨」の登場する架空世界を紹介し、そこではどのような認証が使われているか考察していこうと思う。

電子マネーとは何か?

さて、そもそも電子マネーとはなんだろう。
従来、通貨は紙幣や硬貨という形(現金)で取引されてきた。しかし、これだと多額を運ぶときに大変だったり、奪われる危険があったりした。そこで銀行が開設され、手形や小切手、クレジットカードといった現金を使わない決済手段が発達した。だが、これらは主に高額決済に特化しているため、普段の生活、例えば商店でのちょっとした買い物などでは引き続き現金が用いられていた。ここで用いられる小銭の煩わしさを解決しようというのが「電子マネー」だ。
結局のところ、「電子マネー」というのは、今まで貨幣という「物品」で取引してきたところを、電子データに置き換えようということである。架空世界のうち、近未来以降を扱ったものにはよく登場する。
もちろん電子データである以上、認証は欠かせない。誰かに勝手に使われるわけには行かないからだ。
では、電子マネーが登場する作品を考察していこう。最初ははてなブックマークでのコメントでも要望のあった「カウボーイビバップ」だ。

2071年の太陽系を舞台としたSF

それではいつものように基本データから。1998年に初放映された、渡辺信一郎監督音楽に菅野よう子を迎えたSFテレビアニメ作品だ。
2071年、宇宙開拓時代を迎えた人類は太陽系内に生活圏を広げている。生活圏が広がった代償として治安が悪化。その対策として、指名手配犯を捕まえる賞金稼ぎ「カウボーイ」たちが活躍している。そのうちの一人「スパイク・スピーゲル」とその相棒「ジェット・ブラック」、そのほか謎の美女「フェイ・バレンタイン」、天才ハッカーの「エド」、犬の「アイン」たちの活躍を描く。
基本的には1話完結で、ハードボイルドタッチの作風を中心に、コメディ、サスペンス、ホラー、サイバーパンクなど様々な話が展開する。

さて、本題だ。2071年時点の太陽系ではどのような決済手段が用いられているのだろうか。
通貨単位はウーロンで、紙幣なども存在するが、やはり電子マネーによる決済が主流のようだ。例えば1話では位相差空間ゲート(宇宙の高速道路のようなもの)の出入り口では料金所リングのクレジットセンサーを通して料金が支払われていた。ちょうどETCといったところだろうか。
電子マネーはマネーカードというカード型のデバイスで管理されているようだ。このカード自体には特に認証がかかっているようにはみられない。つまり「所有物認証」のみである。まあ、現代の電子マネーカード、たとえば「nanaco」や「WAON」もその形態で現在困っていないのだからいいのだろうか。
一方で、スパイクたちは現金を好んでいる描写も存在する。やはり裏稼業に近いカウボーイは、足のつきやすい電子マネーはあまり好みではないということだろうか。

「Suika」を埋め込まれたエキナカの人間たち

さて、もう少し進んだ電子マネーが登場する架空世界を見ていこう。題材となるのはTwitterでも一時期話題となった小説「横浜駅SF」だ。
基本データから紹介しよう。2015年にネット小説として発表されたSF作品で、筆者はイスカリオテの湯葉氏(その後、書籍化に際し筆名を柞刈湯葉と改名)。

このツイートを発端に「無尽蔵に広がり続ける巨大構造体と化した横浜駅を旅するSF」という内容で、Twitter上で即興短篇として執筆されたものが好評。その後湯葉氏のブログにて本篇が執筆され、ネット投稿小説サイト「カクヨムへ投稿。2016年には第1回カクヨムWeb小説コンテストSF部門大賞を受賞し、12月にカドカワBOOKSより単行本が発売されている。
現在でもカクヨムのサイト上に全篇が掲載されているので、詳しくはそちらをぜひ読んでみてほしい。また、単行本はストーリーがカクヨム版とは若干違っているので、比べてみるのも面白いだろう。今回は単行本版を準拠として考察していく。

あらすじを紹介しよう。自己増殖を繰り返し、本州の大部分を覆い尽くした「横浜駅」。横浜駅の「エキナカ」は「Suika」という認証端末で管理されている。大半の者は「エキナカ」で暮らしているが、「Suika」を持たない者や、不正判定を受けた者は「エキソト」へ放り出され、そこで暮らしている。生まれた頃よりエキソトで暮らしていた青年「ヒロト」は、「エキナカ」より来た男より手渡された「18きっぷ」を手に、エキナカへの探検に赴くが……。
このあらすじからも認証の話が見えてくると思う。「エキナカ」の人間は6歳までに「Suika」を体内に導入する必要がある。「Suika」は認証端末であり、かつ電子マネーの「財布」でもあるため、これを持っていなければ「エキナカ」で生活できないのだ。これは後付けの「生体認証」式電子マネーといっていいだろう。
一方ヒロトは、「18きっぷ」という切符で5日間だけ「エキナカ」に入場する権利を獲得する。これはカード型をしており、「所有物認証」と言える。しかし、「18きっぷ」には電子マネー機能はない。ヒロトがエキナカのカレー屋で現金で支払いを済まそうとしたところ、「エキナカ」の人間は現金を見たことがないためトラブルになるといったエピソードも存在する。

仮想通貨の登場するSFも存在する

ここまでは電子マネーの登場する架空世界を考察してきた。では、最近話題の「bitcoin」のような「仮想通貨」の登場する架空世界はあるのだろうか。

その前に「電子マネー」と「仮想通貨」の違いについて説明しよう。
従来の電子マネーは、どこまでいっても既存の通貨に価値を依拠してきた。一方「仮想通貨」はそれ自体が独自の価値を持つ「代替通貨」である。要するに日本円に対しての米ドルのようなもので、発行母体が違い、全く独自の価値を持つ通貨なのである。だから現実のニュースで「bitcoinが急騰」などの話題が登場するわけだ。
ではどのようにして「仮想通貨」の価値は保証されているのか?
ここはまさに私の専門分野なのだが……。本講義で話すにはかなりの脱線となってしまう。またの機会とさせていただこうか。興味のある諸君は、各種文献を当たってみるように。

さて、この仮想通貨を題材としたSF作品が存在する。藤井太洋著「アンダーグラウンド・マーケット」である。
藤井太洋氏は2012年に電子書籍によるセルフパブリッシングで「Gene Mapper」を発表しデビュー。その後も近未来を精緻に描いた作品を数々上梓し好評を博している。
今回紹介する「アンダーグラウンド・マーケット」は2013年から2014年にAmazon Kindleでリリースされ、その後改定され単行本になった作品だ。
全篇にわたって仮想通貨を題材としたSFで、無税の地下経済に生きる人々の生活とトラブルを描いている。
仮想通貨のやり取りは現代と同じように主にスマートフォンやパソコンを用いていて、特に「バンプ」と呼ばれる、スマートフォンを持った手を打ち付けあって情報をやり取りする方法が何回か登場する。認証自体の描写はあまり登場しないが、今の技術の延長であろうから、スマートフォンの指紋認証などを用いているものと推測される。
また、途中で仮想通貨が「スリ」に遭う描写も存在する。スリの少年がNFC(近距離無線通信)の決済モードにして、勝手に盗み取ったのだ。これを見るに、この架空世界での仮想通貨は、限りなく現金に近いような扱いができるもののようだ。
他にも仮想通貨の扱いは、この作品の核心であるので、詳しくは諸君の目で確かめてみてほしい。藤井太洋氏のSFは、その他の作品もこの講義を読んでいる諸君が好みそうな題材が多いのでおすすめしておこう。

次回は総集編。復習を忘れないように!

今回は「電子マネー」や「仮想通貨」の登場する架空世界を紹介してきたが、いかがだっただろうか。
こうした商取引と認証は切っても切り離せない関係である。架空世界を通して現実の取引についても考察してみるのも良いのではなかろうか。

さて、次回は第10回。いったん新しい架空世界の紹介はお休みとして総集編をお送りする。まあ、いわば本講義における小テストのようなものだ。きちんと過去の掲載分を読んで復習しておくように。
それでは今日はここまで!

【著者プロフィール】

朽木 海(フリーライター、編集者)
主にITとゲームのあれこれを請け負うライター。前職は某ゲーム会社でいろんなゲームを作ったり、公式Twitter担当をしたりしていました。現在勉強中のテーマはブロックチェーンとマストドン。スーパーマリオオデッセイも面白いですね。ドラクエXのVer.4も発売されるし、時間が……!

>前回記事:架空世界 認証セキュリティセミナー 第8回「ガンダム・パトレイバー・コードギアス−−リアルロボットにおける認証」
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>認証の基礎知識について:「認証」の基礎知識(1):日常にあふれる「認証」