「007」を強烈に意識したブッ飛びスパイ映画

……それでは講義を始める。
前回は「カードキャプターさくら」などを題材に、魔法少女と認証をこじつけ……いや、解明する試みを行った。いかがだっただろうか。
一概に魔法少女といっても、夢と希望で魔法を使うものから、理屈とロジックで戦う少女までいるということがわかったと思う。
諸君らの好きな魔法少女がどのような認証を使っているのか、あるいは認証などぶっ飛ばしているのかを報告してくれると嬉しい。

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さて、今回はあの大ヒットスパイ映画を題材に、認証ネタを探っていきたい。
また、認証だけでなく、現代ならではのギミックについてもちょっと触れられれば良いかなと思っている。
題材となるのは映画「キングスマン」だ。

「マナーが紳士を作るんだ」

まずは基本データから紹介しよう。
原作は2012年より執筆されたマーク・ミラーとデイヴ・ギボンズによるアメリカンコミック「キングスマン:ザ・シークレット・サービス」。2014年にマシュー・ヴォーン監督が映画化した。
イギリスでの公開は2015年1月、日本でも約半年遅れで劇場公開された。
アメコミではあるものの、舞台はイギリスのスパイ組織であり、登場するのもほとんどがイギリス人である。

あらすじを紹介しよう。
ロンドンのサヴィル・ロウにある高級紳士服店「キングスマン」。しかしそれは仮の姿で、本当はどこの国にも所属せず、難事件やテロリズムを解決するスパイ組織「キングスマン」の拠点であった。
一方、幼い時に父を亡くし、貧困地区で母の恋人の暴力に苦しめられる青年・エグジー
車の窃盗で警察に捕まった彼は、父の死の際に「困った時に電話しろ」という言葉とともに渡されたペンダントのことを思い出し、そこに書かれた電話番号に電話をかける。
すると彼はあっという間に釈放され、ハリーと名乗る男に引き取られる。
ハリー曰く、彼の父は「キングスマン」の一員で、任務中に事故で亡くなったというのだ。
「人間の一生は生まれや家柄によるものではない。努力によって培われる」というハリーの言葉に励まされたエグジーは、キングスマンの新人候補として訓練に参加することになったのだが……。

サヴィル・ロウは「背広」の語源となったといわれる場所で(諸説あり)、古くからのイギリス・ロンドンの象徴ともいえる街だ。
そんな上流社会へ突然送り込まれたエグジーが、スパイとしてどのような活躍を遂げるのか?
Blu-rayや各種配信で好評発売中なので、ぜひご覧いただきたい。

この後はキングスマンのネタバレが含まれる。未見の方はご注意あれ!

「掌紋認証」が文字通り鍵を握る

それでは認証の話だ。
この世界では掌紋認証がメジャーらしく、キングスマンの秘密基地に入る時にも、ハリーは試着室の鏡に手をかざし、掌紋認証で扉を開いていた。
掌紋認証は指紋認証と違い、成長や加齢により形状が変わってきて認識率が低下するという特徴がある。つまり、定期的に更新しなくてはならないのだ。
これは一見デメリットに思えるが、物理的に有効期限を設けられるということにメリットになる場合もある。特にセキュリティを重視する秘密基地の扉などでは有効となるだろう。

一方、敵役もこの掌紋認証を使ってくる。
世界規模の人類抹殺を企むIT企業の富豪ヴァレンタインが、人類に殺し合いをさせる装置の起動に掌紋認証を使用している。
しかもこれは手のひらが触れている間だけ起動するという仕組みになっている。
もちろんハッキングで停止することもできないため、人類抹殺を防ぐ側のエグジーは彼を認証装置からどうにかして遠ざけなければいけないのだ。
結末はどうなるのか、人類は抹殺されてしまうのか。詳しくは諸君の目で確かめてほしい。

余談:スパイ映画に必須の秘密道具とオマージュ

キングスマンではスパイ映画の必須アイテムである秘密道具も実に英国紳士風だ。
まず、オーダーメイドのダブルのスーツは全て防弾仕様。傘も防弾仕様で、防御している間も向こう側が見えるようになるという逸品だ。
紳士の眼鏡は通信・録画機能付きで、さらに遠隔会議用に3D映像を見ることもできる機能まで搭載されている。
そのほかにもライター型の手榴弾、電撃を与えられる指輪、毒入りペン、さらに靴には毒入りの刃が仕込まれるなどガジェット感満載である。

多くのガジェットは「007」シリーズにも登場するようなものばかりである。
そもそもジェームズ・ボンドもサヴィル・ロウのスーツがトレードマークであるし、明らかに意識して作っているのだろう。
さらに、ジェームズ・ボンドといえばマティーニ。ボンドは「ウォッカ・マティーニを。ステアではなくシェイクで」というが、エグジーは「マティーニを。ウォッカでなくジンで。ベルモットは入れずに瓶を見ながら10秒ステアで」と、真っ向から歯向かう注文の仕方をするのだ。

新作「キングスマン:ゴールデン・サークル」も驚きの展開に

2018年1月から日本でもロードショウされた新作「キングスマン:ゴールデン・サークル」は、序盤からキングスマンの店舗(=秘密基地)が爆破され、死んだと思っていたあの男が生きていたという驚きの展開を迎える。そして、エグジーたちはアメリカへ渡ることになる。
そこにはキングスマンによく似た組織である「ステイツマン」という組織があり、彼らに助けられることになるのだが……。
残念ながら2018年3月時点では大体の劇場上映は終了してしまっている。未見の諸君はBlu-rayや配信を楽しみに待ってほしい。
本作でも、エグジーの秘密兵器満載の車に乗る際には鍵ではなく指紋認証を利用していたり、ステイツマンの秘密基地に侵入する際には生体認証ロックを腕時計型コンピュータでハッキングしたり、敵役の最終兵器の停止用パスワードを皮肉の利いた方法で聞き出したりするなどなど、認証がらみのネタが多数存在する。
各シーンで、生体・所有物・記憶といった認証方式が、様々な技術と組み合わせで登場しているので、どのようにセキュリティを担保しているのか、そしてハッキングしたのか、考察しがいがあるだろう。

次回はBEATLESS。予習を忘れずに!

今回は若干ネタバレありでお送りしてきた本講義だが、未見の諸君もぜひご覧いただきたい。
時間を感じさせないリズムの良さとパロディ満載の本作品、満足いただけることは間違いないと思う。
ただし、第1作はPG-15、第2作はPG-12なので、その程度の暴力描写があることはご留意いただきたい。

さて、次回であるが、執筆時点で絶賛放送中のテレビアニメ「BEATLESS」を取り上げたいと思う。まだ完結してない作品であるし、どのように取り上げるか悩むところではあるが、認証に絡めた話はできるのではないかと思う。
ちなみにAmazonプライムビデオで見逃し配信中なので、未視聴の諸君は予習しておくことをお勧めする。
では、本日の講義はここまで!

【著者プロフィール】

朽木 海(フリーライター、編集者)
主にITとゲームのあれこれを請け負うライター。前職は某ゲーム会社でいろんなゲームを作ったり、公式Twitter担当をしたりしていました。現在勉強中のテーマはブロックチェーンとマストドン。今回の平昌大会が良かったのは、時差がほとんどなくて夜中に見る羽目にならなかったことですね。

>前回記事:架空世界 認証セキュリティセミナー 第16回「さくらと魔法の認証【カードキャプターさくら】」
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