新年度、新学期、パスワード管理できていますか?

……それでは講義を始める。
諸君らの中にも、新入学、新入社と言う者はいるだろうか?
4月は新生活の始まりという者も多いだろう。そんな時に悩ましいのはパスワードの管理である。なにせ、新環境では大量の新規IDが発行され、パスワードを登録・管理することになるのが常だからだ。
当然、パスワードの使い回しなどはしてはいけないが、いくらなんでも大量のIDとパスワードの組み合わせを覚えるのはしんどいだろう。
そんな時には「PassClip」をはじめとしたパスワード管理ソフトを利用することをお勧めしたい。ちなみにPassClipであればPCにインストールする必要がないので、PC管理が厳重な環境でも問題なく利用できるだろう。
しかし、スマホを持ち込めない職場だと、管理ソフトも使えない。そういった場合は仕方がないので紙にメモしておくことになる。
ただし、それを決して他人が容易に分かる場所に置いておいてはいけない。メモ帳に記録して携帯するか、財布の中に入れておくなど管理しておくことが重要だ。
これまで受講してきた諸君ならわかるだろうが、パスワードをメモに書くことで「知識認証」から「所有物認証」への変換がされているのだ。
なので、認証用の所有物はきちんと管理しなければいけない。十分注意しておこう。

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閑話休題。
前回はTVアニメ「BEATLESS」を題材に、認証と技術的特異点(シンギュラリティ)を迎えた社会について述べた。ちょっと難しかっただろうか?
今回は安心してほしい。いつものこじつけ……ゲフンゲフン、とんちを利かせたタイプのネタをお送りする。題材となるのは少年マンガの金字塔「ジョジョの奇妙な冒険」だ。

「おれは人間をやめるぞ!ジョジョ——ッ!!」

まずは基本データから紹介しよう。
荒木飛呂彦により1986年、週刊少年ジャンプにて連載開始。2005年には月刊ウルトラジャンプに移って今でも連載が続けられている長寿シリーズだ。シリーズの単行本は100巻を超え、数々のゲーム化アニメ化も果たされている。
あらすじに関しては今回紹介しない。なにせジョースター一族と、邪悪な吸血鬼と化したディオ、そしてその後継者たちが世代を超えて戦い続けるという大河ストーリーであるからだ。世代ごとに世界背景や敵も変わるので、すべてを説明しきれない。それに、すでに既読である諸君の方が多いだろう。
しかし、ジョジョに認証にからむ場面が登場しただろうか?
そこはそれ、今までカクセキュを受講して来た君たちの脳みそを駆使すればなんてことないはずだ。それでは紹介していこう。

「ああ、うそだぜ! だが……マヌケは見つかったようだな」

まずは第3部「スターダストクルセイダース」より、空条承太郎VSダークブルームーンの戦闘のシーンからだ。
承太郎の母・ホリィを救うため、エジプトで待つディオの元へ向かう船旅の途中、承太郎たちは正体不明のスタンド使いからの攻撃を受ける。密航者の少女がいかにも怪しいのだが、船長が密航者の少女を船倉へ連れて行こうとした時、承太郎が「スタンド使いは船長だ」と指摘する。
スタンド使いには共通する特徴があり、スタンド使いはタバコの煙を少しでも吸うと、鼻の頭に血管が浮き出ると言うのだ。
少女以外の全員が鼻の頭を押さえて確認するが、これが承太郎の狙いだった。

「うそだろ承太郎!」
「ああ、うそだぜ! だが……マヌケは見つかったようだな」

船長も鼻の頭を押さえていることにより、船長がスタンド使いだと見抜いたのだ。
密航者の少女は「スタンド使い」というものの存在を知らなかったから鼻を押さえなかったわけで(スタンドはスタンド使い以外には見えない)、一種の知識認証であると言えるのではないだろうか。

知識認証とは通常、自分しか知らないものやコトを元にして認証を行う方式だが、誰が知っているのかわからないことをハッタリとして提示し、それに反応した人間を「知っている」とするのもやり方としてはアリだ。承太郎の策士っぷりが垣間見えるシーンである。

「わかったぜ、本体は……てめえだァ——ッ」

次は第4部「ダイヤモンドは砕けない」より、レッド・ホット・チリ・ペッパー戦大詰めでの出来事だ。
一度は倒したと思ったチリ・ペッパーの本体の音石明の姿が消えた。意識不明のはずが、ジョセフ・ジョースターを殺害するためにスピードワゴン(SPW)財団の用意した船に飛び乗ったのだ。
そしてSPW財団の職員になりすますが、本当のSPW財団の職員に見つかり、ニセ者だと指摘されそうになる。
とっさに疑った職員を指差し「こいつ、我々SPW財団の人間じゃないぞ!」と言い放つ音石。そして本物の職員も音石をニセ者だと主張する。
その場でジョセフを守っているのは、自分の判断力にイマイチ自信がない虹村億泰のみ。
億泰は音石の顔を見ていないので、同じ制服を着た2人のどちらが音石でどちらがSPW財団の職員か、わからない。
顔による生体認証も制服による所有物認証も不可能というわけだ。
そこで……。

「わかったぜ、本体は……てめえだァ——ッ」
と殴りつけた億泰のパンチは音石にクリーンヒット。

「なんで……? なんで!……おれの方だとわかった…んだ?」
「知りたいか? 2人ともブン殴るつもりだったんだよ」

つまり、億泰は総当たり攻撃を仕掛けたつもりだったのだ。
たまたま一発目が音石に当たっただけで、SPW財団の職員をも巻き込んで倒すつもりだったというわけだ。

この場合、対象者が2人しかいないわけだから、総当たり攻撃は妥当な選択だろう。
普段から自分は頭が悪いと言っている億泰だが、この選択はベストだったようだ。

実際の戦争・防衛における敵味方識別

今回取り上げた「ジョジョ」における2つの事例は、いずれも「敵と味方を識別する」際に何で認証するかという話だったが、実際の戦争や防衛の際にはどのように敵味方識別をしているのだろうか。

過去においては「」がその役割を担っていた。特に艦船においては旗の役割は大きく、遠くからでも識別され、同士討ちを防ぐためには必須だった。

現在の艦船や航空機では敵味方識別装置という機器が用いられている。
特定の信号を発信して、それに対して正しい応答があれば味方正しくない応答や、応答がない場合は敵もしくは正体不明として扱われる。敵味方識別装置に応答しなければ、たとえ本来は味方であっても攻撃されても文句は言えないのだ。
まあ、実際には警告や威嚇射撃などの手続きが踏まれるのだが。

次回は定期考査。復習を忘れずに!

今回はゆるい感じで認証とのつながり(?)を紹介したが、いかがだっただろうか。大抵の人が知っている作品でもあるし、こうした息抜きができるのもよかったのではないかと思う。もし未読の方がいれば、ぜひ読んでみてほしい。
また、他のバトル系マンガやアニメにも、敵が味方になりすましていて、それをどうやって見抜くか?というシーンがよく登場する。そのようなシーンでは、どのような認証を用いたのか?という視点で読み返してみると面白いかもしれない。

さて次回だが、20回を迎えるということで恒例の定期考査を行いたいと思う。出題範囲は11回から19回となるので、ぜひ復習してから挑んでほしい。
それでは本日の講義はここまで!

【著者プロフィール】

朽木 海(フリーライター、編集者)
主にITとゲームのあれこれを請け負うライター。前職は某ゲーム会社でいろんなゲームを作ったり、公式Twitter担当をしたりしていました。現在勉強中のテーマはブロックチェーンとマストドン。ゴールデンウィークには積んであるゲームを消化したいなあと考えてはいるのですが……。スケジュール的に厳しいかなあ。

>前回記事:架空世界 認証セキュリティセミナー 第18回「認証と技術的特異点(シンギュラリティ)【BEATLESS】」
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>認証の基礎知識について:「認証」の基礎知識(1):日常にあふれる「認証」