最新作も絶賛放送中の人気アニメ
……それでは講義を始める。
前回はSF映画の金字塔「ターミネーター2」に登場する認証の現場を見て行った。いかがだっただろうか。
案外こうした古典は、ネタとしては知っていても見たことはない人も多いかもしれない。これを機に視聴してみるのも良いだろう。
今回はあの世紀の大泥棒「ルパン三世」を題材に、認証がどのように絡んでくるのかを見ていく。2018年6月現在も地上波にて新作が放映されている。それでは具体的に見ていこう。
大人向けを志向し、再放送で大ヒット
では基本データから紹介しよう。と言っても、さすがに知っている諸君の方が多いだろうか?
原作はモンキー・パンチのマンガで、1967年よりWEEKLY漫画アクションにて連載開始、1971年にはテレビアニメ化された。
「テレビまんが」と言われている時代に大人向けの作品を志向し、当初は視聴率が伸び悩んだが、再放送が繰り返された結果人気が高まり、第2シリーズの制作が決定、その後不動の人気を博している。
あらすじについては紹介する必要もないだろう。世紀の大泥棒「アルセーヌ・ルパン」の孫である「ルパン三世」とその仲間「次元大介」「石川五ェ門」が、謎の美女「峰不二子」と時には敵対、時には協力しながら美術品や宝飾品の泥棒を繰り広げ、そしてICPOの敏腕(?)刑事「銭形警部」がルパン一味を追跡する物語だ。
基本的には1話完結で、ナンセンスやスラップスティックなどの要素をふんだんに含んだコメディ作品である。
日本だけではなく海外でも人気の作品で、2015年に放映された第4シリーズは主にイタリア向けに制作された。
現在は第5シリーズ「ルパン三世PART5」が絶賛放映中である。このPART5は、第1話から第5話が連続したストーリーになっており、第6話が1話完結、第7話から新しい連続ストーリーが始まるという構成になっている。見逃し配信はHulu他、多数のサイトで行われているので合わせてチェックしてみてほしい。
脳力0でないと開けられない金庫?
では、認証についてみていこう。まずはテレビアニメ最新作「ルパン三世PART5」の第6話「ルパン対天才金庫」からだ。
大東京銀行に「天才金庫」がやってきた。町工場の発明家・ヒラメキ兄弟が開発した金庫で、開ける人間の頭脳の力「脳力(のうちから)」を測定する機能がある。しかも、脳力が「0」にならないと絶対に開かない仕組みなのだ。脳力「0」なのは、ヒラメキ兄弟の兄しかおらず、この兄にしか開けられないという金庫、果たして金庫としての役割を果たすのか? ……はともかく、この金庫になぜかルパンが、まったく脈絡もなく挑戦する流れに。
ルパンの脳力はなんと「300」。この金庫、ルパンはどうやって開けるのか? ……という、聞くだけで頭の悪くなりそうなストーリーである。
一応、脳力は生体認証の一種ということでいいのだろうか……? 要するに「完全なアホ」でないと開けられない金庫ということのようだが、どのようにしてこの「脳力」を測定しているのかは非常に興味深い。
論理的思考能力を持っているかどうかを機械が判定するのであれば、通常はクイズ形式でテストを繰り返していくのが一般的だが、「天才金庫」の場合はセンサーをかぶるだけで「脳力」が測定されていた。果たして、アホ特有の脳波パターンというのがあるのか? 兄の脳波パターンをサンプルにしているだけじゃないのか? と、いろいろツッコミたいところはあるのだが……。まぁ、ヒラメキ兄弟(主に弟の方)はすごい発明をしたのかもしれない。
一方ルパンは「アホの顔」をすることによって「脳力」を大幅に下げることに成功する……が、「脳力」0には今一歩届かない。
最終的にルパンはどうやって金庫を突破したのか?それはぜひ配信などで確認していただきたい。
こういういかにも頭の悪い話は、昔のルパンのオマージュといった感じで、筆者はとても好きである。
コネがあれば他人の倉庫から出し入れ自在?
続いて紹介するのは同じく「PART5」の第7話「その名はアルベール」。新たな連続ストーリーの1話目だ。
ルパンとは旧知の仲で、かつては裏社会で「偽造の名人」と呼ばれていた男・ガストン。自分の孫が描いた絵に、ピカソのサインを偽造したら、大富豪ミスターBに買われてしまったのだという。ミスターBのBは「ブラックホール」を意味し、一度コレクションしたものは二度と市場に出回らないという異名を持っている男だ。
ガストンから絵を取り返す依頼を受けたルパン。まずは不二子に化けてミスターBと接触。色仕掛けで虹彩と指紋をちゃっかりと盗み出す。そして、特殊なコンタクトレンズと手袋で指紋認証と虹彩認証を突破し、ミスターBの家の隠し倉庫の扉を開けるという寸法だ。
しかし、取り戻した絵は異様なまでに本物のピカソと似ており、裏に何かがあるという疑惑を抱く。そこでルパンは依頼に隠された真相を探ることにする。
どうやらガストンはわざとミスターBに偽ピカソの絵を売りつけ、最も安全と言われる場所に保管し、必要になった時にルパンに依頼して盗み出させるつもりだったことが判明する。
「世界一の大泥棒ルパンとの人脈があるからこそ取り出せる」という、メタな視線で見ると「人脈認証」を利用したとも言える保管方法だ。
そして、この絵に隠された謎が「PART5」第7話以降のストーリーを展開させていくのだが……。この続きは諸君の目で確かめて欲しい。
偽札をめぐる攻防
もう一つ紹介するのは劇場用アニメの名作「ルパン三世 カリオストロの城」より、「ゴート札」について。「カリオストロの城」の基本情報やあらすじは、有名作でもあるし今回省略させていただく。
さて、作中で重要な要素となってくる「ゴート札」とは、カリオストロ公国を支える重要な資金源で、世界中で流通する紙幣を精巧に真似た偽札である。
紙幣は、その紙幣と交換に何かを購入することができるという所有物認証のような性質を持っており、それを保持するために本物であるための特徴が付与されて作られている。
しかし、人間の目と手で真贋を見極めるのは限界がある。そこで、現在では機械によるチェックが一般的になっている。
偽造防止の技術として有名なのは「すかし」だが、他にもインクに磁気インク、紫外線発光インク、パールインクなどの特殊なインクを採用したり、印刷技術としてホログラム、マイクロ文字、深凹版印刷などを採用したりしている。
ちなみに偽札には2種類あり、人間を騙すための偽札と、機械を騙すための偽札がある。前者は見た目や触り心地をそっくりにしてあるが、後者は印刷されている意匠は謎の模様だけのものや、全くの白紙に見える場合もあり、磁気の反応や模様への反応だけを模して機械のチェックを突破するというものである。ゴート札はおそらく前者をターゲットとしていると思われる。
ちなみに劇中ではカリオストロ伯爵がゴート札の品質の低下を嘆いているシーンがある。これはカリオストロ家の技術が低下したというより、各国の真札の製造技術が進歩して、対応できなくなりつつあったというほうが正しいだろう。
何れにせよ、ルパンが起こした混乱と銭形警部の活躍により偽札工場はICPOに発見されてしまい、カリオストロ家の悪事は終焉を迎えることとなる。
ゴート札関連の顛末は以上だが、宮崎駿の映画初監督作品ということもあり、特に演出面での見どころが数多く存在する。もし未見であれば、鑑賞を強くお勧めする。
次回、連載最終回は「ドラゴンクエスト」
いかがだっただろうか。ルパン三世PART5は今後、有名シナリオライターや小説家を迎えた新ストーリーも展開するということなので注目しておいて損はないだろう。
さて、1年間お届けしてきたこの講義だが、定期連載としては次回が最終回となる。
もちろん、何か大きなトピックがあれば特別講義を行うこともあると思うので安心してほしい。
その最終回のテーマは「ドラゴンクエスト」だ。
ちなみに本講義の初回に取り上げたのが「ファイナルファンタジー」だったことは覚えているだろうか? ドラクエにはどんな認証ネタがあるのか、次回講義を楽しみに待っていてほしい。
それでは本日の講義はここまで!
【著者プロフィール】
朽木 海(フリーライター、編集者)
主にITとゲームのあれこれを請け負うライター。前職は某ゲーム会社でいろんなゲームを作ったり、公式Twitter担当をしたりしていました。現在勉強中のテーマはブロックチェーンとマストドン。Oculus Goを買いました。Standalone VRはともかくお手軽でいいですね。
>前回記事:架空世界 認証セキュリティセミナー 第22回「コンピューターvs.人間 と認証【ターミネーター2】」
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>認証の基礎知識について:「認証」の基礎知識(1):日常にあふれる「認証」