新型コロナウイルスへの感染が世界中で拡大していますが、今回はそれにも関係した話題をお送りします。

この新型コロナウイルス騒動は様々な社会・業界に大きな波紋を広げていますが、生体認証の中でも普及が進んでいる顔認証と指紋認証にも、その影響が出てくると思われます。

まず指紋認証ですが、現在普及している指紋認証はセンサーに指を触れることが前提です。個人所有のPCやスマホなどのロック解除に利用する分には自己管理の問題となりますが、施設や部屋への入退場など、複数の人がセンサーを共用する認証の場合は、「感染している可能性がある不特定多数が触るところに指を触れる」という感染リスクを負うことになり、接触型の生体認証に対する警戒意識は強くなるでしょう。

非接触型生体認証の代表である顔認証では、新型コロナウイルス流行前からマスク着用者が多かった日本だけではなく、マスク着用習慣がほとんどなかった欧米でも、新型コロナウイルスの影響でマスクの着用者が急増し、「マスク着用のままでは顔認証が不可能」となり、顔認証システムの負担が高まってきています。また、顔認証を利用するたびにマスクを外して、着け直すという行為自体が感染リスクにつながるような気がします(医療の専門ではないので不明確)。

そんな中、世界中で使用される監視カメラ約200万台を供給している中国の顔識別システムの大手企業の漢王科技(Hanwang Technology)社が、「マスクを装着したままで顔を識別できる技術の開発に着手し、実用実験段階にある、というニュースが入ってきました。

同社の通常の顔識別システムでは、マスクをしていない人の認証精度99.5%に対して、マスク着用だと50%程度に低下してしまい、本人認証としては使えるレベルではありませんでした。しかし、新たに開発している顔識別システムでは、現時点でマスク着用でも95%にまで精度が高まってきている、ということです。

くわしい技術の内容は以下の通りです。
マスク着用だと識別するために利用できる顔の特徴となる部分が減ってしまうために精度が大幅に低下してしまうところを、マスクのない顔で最初に顔情報を登録する際に撮影した元データを使って、ソフト側で様々なマスクのCGデータと合成させ、「もしマスクをしていたらどう見えるか」を推測したマスク着用した場合の顔情報を用意し、マスク着用時には、それらのデータを使って識別するというものだそうです。

つまり、この技術は、マスク着用で非一致ポイントが増加したことによる識別率の低下を抑え、精度を向上させるという仕組みなのですが、マスクで隠されていない目元などの少ない顔の特徴だけで、個人の識別が本当に実用レベルにまで高めることができるのでしょうか。

同社は、現在開発中のこの技術は、あくまでも個人利用の監視カメラ市場に的を絞っており、公共の場でその技術を使うことは考えていない、と明言しています。もしこの顔識別技術が今後の研究開発で精度を上げ、本人認証にも利用できるレベルになれば、マスク着用時でも使える顔認証技術になるかもしれません。
しかし、顔情報登録時の撮影データをCG加工するということは、元の顔の画像を保管しておく必要があるのではないでしょうか。もしすであれば、その顔データが盗まれる危険性を考慮し、保管は厳重にすべきでしょう。また、識別に使用する顔の特徴部分が少なくなるということは、偽造する部分も少なくて済むということです。同社が利用範囲を限定的にしているのには、こういった理由もあるのかもしれません。

P.S.
iPhoneに搭載されている顔認証システム「Face ID」による端末ロック解除ですが、アルゴリズムがアップデートされて、以前はマスク着用では認証できませんでしたが、iOS 13.3.1以降では認証できるようになったとのことです。上記で紹介した監視カメラ用顔識別のように複数の顔を識別する場合とは異なり、所有者本人だけの認証なので、用途としても技術的にも異なるものとなります。