生体認証の世界では、「認識精度の向上」と「偽造などによるなりすましでの不正認証の防止」という課題のために様々な生体部位を利用した認証の可能性が研究されています。その中で今回は、耳穴の形状を利用した「耳音響認証」をご紹介します。
耳音響認証とは?
耳音響認証は、耳の穴に専用の小さなマイクとスピーカーを内蔵したイヤホン型デバイスを装着して使用します。人間には聞こえない周波数の音をデバイスから発信し、耳穴の形状の違いによる反響音の違いで個人の特定を行う認証方式で、英語だと「EarEcho」と言われています。
マイクが拾った反響音はサポートベクターマシン (SVM) と言われる機械学習モデルに無線通信で送られ、マシンで保有している記録音と紐づけられたユーザーの内耳プロファイルと照合が行われ、個人が特定される仕組みです。
現在アメリカ、ニューヨーク州立大学バッファロー校とシラキュース大学の研究チームでの研究開発が行われているほか、日本ではNECがこの認証方式の研究開発を進めています。
耳音響認証の特徴は?
イヤホン型のデバイスであれば、耳に装着したままにしておくことが可能です。そのため、ユーザーがパスワードを入力したり、体の部位をスキャナーにかざしたりする認証のための行動を行わなくても自動で認証が行えることが耳音響認証の特徴です。
一般的な生体認証が、アナログやデジタルでのロック解除(解錠)やログインを行うために使われるのに対して、この耳音響認証は、常時電波を通して送られる反響音情報で、認証を継続的にしつづけることができます。
例えば、施設にいるスタッフ全員に装着させておくことで、どのスタッフが施設のどこにいるのかを常時把握し、施設の保守・管理や警備等、安全・安心に関わる業務でのなりすまし防止や権限のないスタッフによる不正入室や不正作業などを発見することもできますし、行動を記録することもできます。
また、耳にイヤホンを取り付けるだけなので、移動や作業など体を動かしている状態のままで、一切認証を意識することなく、完全にハンズフリーで行動することができます。また、マスクや眼鏡、手袋などをつけて作業行う医療現場や工場のような、他の認証方式では不都合が生じる環境でも利用可能です。
さらに、人体の内側の特徴を使う認証方式なので、偽装や偽造などによる不正認証のリスクにも強い点も優位点と言えるでしょう。
耳音響認証の将来性
耳穴音響認証は、イヤホンを施設のスタッフなどの特定対象に装着させて認証を行うので、不特定多数を対象とした認証方式としては不向きです。
しかし、全員がイヤホンを装着している状態になるので、イヤホンに無線で指示や案内などの音声を流すことも可能ですし、さらに装着者の話した音声を耳内耳に面したマイクから拾うことで、外部の騒音の影響を受けずに音声を送受信できるコミュニケーションデバイスにもなる、というのが大きなメリットです。
工事現場や駅のホーム、ショッピングモールなどの騒音下でも、イヤホンを使って全員、もしくは対象者を特定して、無線での連絡や指示も行え、また音声を記録できることで、施設スタッフなどの管理に最適な認証&連絡の統合システムとして、今後導入発展していくことが考えられます。
現在、日本ではNECが展開している生体認証ブランド「Bio-IDiom」の認証方式のひとつとして研究開発が進められていて、2020年3月からトライアルサービスの販売を開始しています。
今後、どのようなシーンで利用されるのか、動向に注目していきたいと思います。