新型コロナウイルスの感染拡大は生体認証の世界にも影響を与えています。
そのひとつが顔認証です。従来から日本人は花粉症対策や冬の乾燥対策など、マスクを装着することがあり、これが顔認証の障害となってきました。
認証精度の高い顔認証を実現するためには、認証に利用する顔の特徴「認証ポイント」を増やしていくのが通常ですが、マスクによって鼻や口などの重要な認証ポイントが隠れてしまうと、多くの顔認証システムでは、認証不能状態になってしまい、利用者は認証のためにわざわざマスクを外さないといけない、という状況が発生していました。
さらに今年の新型コロナウイルス感染拡大は、日本のみならず世界全体で、外出時のマスク装着をスタンダード化させるに至っています。
「顔認証を実施するにはマスクを外す必要がある」ということは、認証のたびにウイルスで汚れている恐れがあるマスクを外して、付け直す必要があります。これは感染予防の面でも望ましいことではありません。
この状況への対策としてiPhoneに搭載された顔認証システムのFace IDでは、今年5月のOSアップデートで、Face IDシステムを改良し、マスク着用でも対応できるようになりました。しかし、これはマスク装着のままでも顔認証できるようにしたのではなく、マスク装着を検知すると、Face IDではなく、パスコードによるロック解除に切り替える、というものでした。
一方、日本における顔認証システムのリーディングカンパニーであるNECでは、数年前からマスク装着時の顔認証システムの実現を目指して研究開発が進められていて、2020年7月の発表では、マスクを装着した状態でも目元の認証ポイントだけでも、あらかじめ登録したある顔情報とAI学習システムを通して照合を行い、認証できるシステムが、本社実験などで実用段階になっていることが明らかになりました。
通常、顔認証を含めた生体認証では、スマホのロック解除など持ち主であることを特定する1対1認証よりも、大勢の人の中から誰かを特定する1対N認証のほうが、認証が困難になるため、認証するまでの時間がかかったり、認証精度が低下してしまうものでした。
しかしNECの顔認証システムは、1200万人の登録データに対して1秒で照合を行い、認証エラー率がわずか0.5%という世界最高水準の評価(※)を獲得しています。
※米国国立標準技術研究所(NIST)が実施した顔認証技術のベンチマークテスト[FRVT2018]において
新型コロナウイルス感染拡大により、指紋認証のような接触型の生体認証も、1対N認証の場面では、衛生面から敬遠されがちな状況になってきています。そして、接触の必要のない顔認証システムでもマスクにより認証ができないケースが増えてきている状況です。
この状況に対する解決策として、NECの顔認証技術のような、ニューノーマル時代に対応した「マスクをしたままでも認証できる顔認証システム」を適用するか、虹彩認証や静脈認証のような非接触式でマスク着用でも問題のない生体認証に移行していくのか、または生体認証以外の認証方式を採用するのか、いずれかの対応が必要になります。それによってはこれからの認証方式の勢力図が大きく変わっていく可能性があります。
新型コロナウイルスの感染拡大がきっかけで提唱され始めた新しい生活様式、ニューノーマルは、認証の世界にも少なからず影響を与えることになるでしょう。