こんにちは、ダブルワーカーのよいこです。
私はパスロジではマーケティングに関する様々な作業を担当しています。
先日で終了したパスクリ通信では3年以上、毎週認証やセキュリティに関する記事を書いていましたし、ライティング作業以外にもムービー編集を担当したり、マニュアル制作サポートなどもしています。さらには、デザインワークやイラスト作成、Webサイトの構築/運営、イベント製作などをはじめとして、マーケティングに関わる作業は自分で何でもできるので、いわば便利屋みたいでもあるのですが、人から「私の本職は?」と聞かれると、「本職はプランナー」、だと答えています。
2015年に身体を壊して受注仕事でのプランニングの世界からは足を洗いましたが、広告業界からWebクリエイティブ業界へと途中で転身しながら長年プランナーとして仕事をしてきましたので、プランナーと言うのが一番しっくりきます。
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先日、超久しぶりに広告業界時代の知り合いに会いました。
プランニングに関しての協力要請で、今は本業の方がバタバタして忙しいので丁重にお断わりしたのですが、久々に「プランニング」ということについて考えたので、今回は私の本職でもある「プランナー」について書きたいと思います。
プランナーってどういう仕事?
プランニングとか企画書作成とかは、どんな業界、どんな仕事においても存在しますので、プランナーという肩書きがない方でも多くの方が何度か企画書を書くような経験していることと思います。
もちろん企画と言っても多種多様で、「プランナー」と言っても千差万別なのですが、私がやってきたのは、広告や広報、販促などマーケティング・コミュニケーション分野の仕事で、今回書くのはこの世界でのプランナーのことです。
広告屋時代の後に私が移ったWebクリエイティブの世界でのプランニングも、この分野に入ります。
広告業界では、大昔に、糸井重里や眞木準などのコピーライターという職業が脚光を浴び、一億総コピーライターみたいなブームになったことを年配の方ならご存知だと思います。コピーライティングと同じようにプランニングという仕事も、乱暴ですが、「アイデアを出すこと」と、言ってしまうことも完全に間違いとは言えないし、別に専門職でなくても「誰でもできる」という点もあり、それゆえに「プランナー」という仕事も誤解されやすいというか、正しく理解されにくい性質があります。
マーケティング・コミュニケーション分野でのプランニングの基本は、クライアント(依頼主/広告主)からの要請を受け、クライアントの持つ課題の解決を図るための企画を立てる、というのが仕事で、状況分析や競合調査などからはじまり、様々なことを考えていく仕事です。クライアントの業界やターゲットが違えば、全然違う世界を見据えていかなければいけないし、マーケティング・コミュニケーションと一概に言っても、広告、セールスプロモーション、PRなど色々な分野があり、求められる企画書も違うので、そういう意味ではものすごい多岐に渡る知識や理解、そして頭を絞る努力が要求されるのが、この世界のプランナーです。
さらに特筆すべきことは、大半の場合、クライアントから「あなたにお願いします」と指名されて企画書を書くことよりも、競合(コンペティション=コンペ)での企画プレゼン参加のほうが多いということです。2〜3社程度の競合はザラで、中には10社近くのコンペになることもあるのが広告業界やWebクリエイティブ業界の常識です。
本当であれば、企画提案をしてもらうにあたっては、作業への対価をある程度払うのが当然だと思いますが、広告業界の悪しき慣習で、競合プレゼンの場合には、競合に買ったところは扱いを得る、つまり売上になるけれど、コンペに負けたところは一円もならない、という甚だプランナーにとっては失礼な状況が当たり前のように容認されていました。つまりコンペに勝てないとプランナーの労力や努力が全く無駄になってしまうのです。
広告屋に勤めていた当時は、社員としてのギャラが出ていたので、コンペに破れても自分がタダ働きをさせられることはなかったのですが、企画書を作ってプレゼンするまでの膨大な作業を、「取り扱い獲得」というエサをぶら下げて「タダでやらせるのが当然」というクライアントや業界の慣習にはどうしても納得できませんでした。当時のマス媒体主体の広告業界では、扱いを取れれば数千万から億単位の売り上げとなるので、そのためには企画書くらいタダでも出します、という広告会社がほとんどだったのが、こういう流れを作ってきてしまったのです。
もちろん勝てばいいのですが、残念ながらプランニングというのは、絶対的な得点を競う訳ではなく、最終的にはクライアント側の決定権のある人間の考え方や好みや気分など、しょうもない理由で決まってしまうこともあります。またコンペとは言いながら、結局は人間関係ですでに発注先が決まっているような、いわゆる「出来レース」もあったり、価格ダンピングで「企画云々ではなく安いところ」に決まってしまうこととか、正当にプランニングが評価されない酷いケースも多々ありました。だからコンペは大嫌いなのですが、それでも皮肉なことに新規案件などの大事なコンペになると、自分にお呼びがかかるケースが多いので、「絶対に出来レースではないこと」「見積もり競合ではないこと」など、フェアな決断が行われることを条件として、止むを得ずコンペでのプランニングの仕事を受けていました。
競合に勝つプランニング
「コンペに勝つ」、という命題をクリアするのが、広告やWebクリエイティブなどのマーケティング・コミュニケーション業界での本職の「プランナー」の仕事です。
企画書は誰でも書けますが、この「コンペに勝つ企画」を書ける人間というのは実はすごく少ない。
広告業界時代、自分の手が回らない時に、外注で協力してもらうプランナーを探して何人ものプランナーを面談したりしたこともありますが、プランナーという肩書きを持っていても、自分が仕事を託してもいいと思えるプランナーはほんとに1割もいませんでした。
もちろん皆プランナーという肩書を持っているプロ達なので、ありきたりの次第点を取れるような企画書は書けるのですが・・・。
Webクリエイティブ業界に入るとさらにプランニングということがないがしろにされていて、Webプランナーという肩書きを持っているプロはほとんどいなくて、Webディレクターがプランニングもする、というのが大半というあまりにもお寒い状況。
もっともプランニングなどテキトーでもWebサイトは作れるし、依頼するクライアント側も含めて、Webプロデュースにそこまで求めていないケースが大半でしたので、Web業界に専門のプランナーというジャンルのスタッフが育たないのでしょう。
サイトのユーザビリティやUIデザインなどにこだわっても、どうしてこういうサイトが必要なのか、については語られることはあまりありません。
何度か依頼されてクライアント側に入って、何社かのWebプロダクションにコンペをさせて、その選考をしたことがありますが、残念ながら評価できるべきプランニングというレベルではなかったですね。
それなりの規模のプロダクションでも、ありきたりな企画レベルばかりでした。
Webのことしか考えていないと、できることには限界がありますので、本当にちゃんとしたプランニングをするには、トータルでのマーケティングコミュニケーション戦略を考えて、その中のWebサイトという媒体の位置付けや役割などを考え、メディアミックスなども含めてトータルで考えていかないといけないのですが、Webプロダクションというのは、広告屋の下で、ハナからWebの部分だけを考える、という状況に甘んじているケースがほとんどでしたので、あまり責めるのは気の毒なのですが。
広告業界でもWebクリエイティブ業界でも、私のやっていた当時はプランナーの養成講座みたいなのはほとんどなかったので、そういう人材が育成される環境がなかったこともその理由です。私も人に教わったことはなく完全に独学でやってきました。ただし機会があれば、人の書いた企画書はいいものでも悪いものでもできるだけ見てきましたね、他を知る意味で。
実は広告業界とWebクリエイティブ業界の両方でプランニングの仕事をしてきている人間というのは、そんなに多くはなく、そういう点では色々なところに引っ張り出されたりしていました。大手Webプロダクションに在籍していた当時も、抱えていた自分のクライアントのディレクション業務をこなしながらも、新規コンペ案件があると頼まれて企画プレゼンしていました。
コンペは大嫌いなのですが、コンペで負けるのはさらに大嫌い、というやっかいな性格なので、自分がやる以上は絶対に勝つ、というポリシーでやってました。
コンペに勝てるかどうか、は政治的営業的な出来レースではなく、同じオリエンでの条件提示での競合であれば、プランナーの腕で決まることが大半(あとはクライアント側が企画を見る目があるかどうか)なのですが、勝つための考え方、というか私の信念があります。
普通の人なら、例えば3社コンペであれば、勝つ確率は1/3で、10社コンペなら勝つ確率は1/10、だから競合相手が少ない方が勝つ可能性が高い、と考えるでしょう。しかし、私はそう考えません。
私の考え方は、競合が何社いようが、いつでも「自分の企画かそれ以外の全部」という1/2の確率で考えるのです。
つまり自分以外のそのへんのプランナー達が考える似たような企画とは全く違う次元のものを提案し、クライアントの喉元にナイフを突きつけ(表現がちょっと過激ですが)、自分の斬新な企画かそれ以外の似たような無難な企画かの二択をさせるように持ち込む、という考え方です。そしてこの考え方がコンペに勝つために必要だというのが持論です。
他社が提案してきそうな企画ももちろん踏まえて、その問題点などを指摘して潰すようにしながら、全く違うアプローチをしていく、ということなので、手間はかなりかかりますし、企画書の書類作成は期限ギリギリでドタバタに最後に追い込んでやるのですが、企画プレゼンまでの期間中は四六時中、寝ても冷めても企画のことを考えて過ごし、そしていつも最後にはなんとか自分で納得できる着地点を見つけて企画書をアップさせていました。
私が考えるプロのプランナーというのは、これができるかどうか、です。
企画書を書くことは誰でもできますが、競合が何社いようと圧倒的な差でねじ伏せることができるかどうか、という時にこそ、プランナーの真価や資質が問われるのです。マーケティング・コミュニケーションプランニングは、単なるアイデア勝負ではなく論理的な組み立てや戦略的なプランニングのための技術も要求されますし、しかしそれだけでは他のプランナーと同じような企画書しか作れませんので、最後は独創的かつ斬新かつ、クライアントを感動させるくらいの刺激的なアイデアももちろん必要になる、そういう意味でのバランスがないと勝てない、だから難しいのです。(奇抜であればいい、ということではありませんが、他の企画と同じようなものを出してもコンペでは勝てない、というのもまた事実です。)
勝つためにはできることは何でもします。特に企画コンペのオリエン(クライアントからコンペに関しての依頼や説明などが行われる時)には、必ず自分も同席させてもらい、クライアントがどういう人間なのかを含めて、知るチャンスを確保していましたし、後日でも、許される範囲で、突っ込んで聞き出したいことも遠慮なく問合せしたりしながら、クライアント側=闘う(?)相手の性格や考え方などを知ることにも努めていました。
そういう努力が、最終的には、絶対的な自分のプランニングへの自信につながっていくことになるからです。
残念ながら、私のような競合に勝つための強い考え方を持ってるプランナーに出会えたことは、ほとんどありませんし、世の中に次々に投入される様々なマーケティング・コミュニケーション活動を見ても、「すごい」と思える企画は、残念ながらあまりありませんが、たまに素晴らしい企画に出会えると本当に嬉しくなります。こんないい企画を考えられるプランナーがいるんだ、と。
私はマーケティング・コミュニケーション分野でのプランナーの仕事はやめてしまいましたが、本業のほうでは、誰も考えない企画をこれからも次々に生み出していきたいと思ってますので、これからも、他の人が絶対書かないような独創的でユニークな企画書が書けるプランナー達がマーケティング・コミュニケーションの世界にどんどん出てきてくれることをホントに期待したいと思います。
自分の刺激にもなるし、そうじゃないとつまらないですし。
という感じで、プランナーの世界のことを少し書きましたが、抽象論的な話ばかりではつまらないので、今までの私のプランナー歴でのランキング?的な事例を最後に少し書きたいと思います。
一番競合会社数の多かったコンペ:
自分がプランナーとして参加した企画コンペで一番競合が多かったのは、特許庁のサイトの製作コンペでした。2005年頃なので現行サイトではありませんが。
お偉方みたいな特許庁の面々がずらっと10人くらい並ぶ前で、持ち時間の20分間で、私がプレゼンをしました。プレゼンにはさりげなく他の会社が出してくるであろう提案全ての問題点を指摘することも含めて、勝つためのプレゼンを行い、無事に終了。後で営業担当から聞いたところだと、全部で9社の入札(コンペ)で、11人のジャッジの全員満場一致で、私の企画が採用になったということでした。
お役所ということで、頭の硬い人間達だろうから、私の企画の意図というかセンスが理解されるかどうか、不安もありましたが・・・。
ちなみに、この時の特許庁サイト、リニュアルで作ったページが、なんと2万ページもあり、今までで作ったサイトの中でも最高のページ数でした。ファイルのFTPアップロードだけでも、当時のネットワーク回線状況では、思いっきり時間がかかってしまい、徹夜しました・・・(^_^;)
一番羨ましがられた企画コンペ:
これは何と言っても日本最大のテーマパークを運営しているO社に対して、隣接する2つのテーマパークの年間最大のキャンペーンとなるクリスマスキャンペーンサイトの企画コンペに参加した時です。
2004年のことなのでもう大昔になりますが、No1広告会社のD社と既存の大手Webプロダクションに混ざって、なぜか私のいたWebプロダクションがコンペに参加することになり、私がやらされるハメになってしまい3社コンペになりました。コンペ前に現場を色々と見ておきたいので会社の経費で、数回2つのテーマパークに行き、コンペに勝ったあともサイト製作運用のために必要なので、クライアントの手配で、無料で数回入らせてもらいました。
もちろん仕事なのですが、知り合いの特に女性陣からは、なんども仕事中に遊び(ではないですが)に行けていいなあ、と散々言われてました。
そのかわりにあまりにサイト製作に関する細かなレギュレーションもスケジュールも厳しくて、10人ほどのプロジェクトチームで総がかりになり、他の仕事にかなり迷惑をかけてしまい、残業の嵐になってしまったのですが、そういう苦労については誰も何も言わないものですね。タダで何度も行ったことばかり言われただけで・・・┐(´д`)┌
一番ページ数が多かった企画書:
今までで一番ページ数の多い企画書を作ったのは、外資系の広告会社時代に、クライアントのグローバル企業の年間マーケティング・コミュニケーション戦略のプレゼン用の企画書で、数十ページの添付資料を含めると200ページ近い企画書を作ったことがあります。
もちろん自分の本意でそんなにページ数が膨らんだわけではなく、無駄にページ数が多いだけのつまらない企画書を作らされたのですが、当時外資系広告屋はとにかく企画書の厚さ勝負みたいな下らないノリがあり、やたらとページ数の多い企画書を作らされていました。
この時の200ページ超えの企画書は、英文企画書で、アメリカから来た担当者を含めてクライアント側と我々エージェンシー側あわせて10数人という大勢の中、プレゼンでウチの副社長(アメリカ人)が延々と企画書を棒読みしていくだけでも長時間かかり、半分寝そうになった記憶があります。( ̄Д ̄;)
一番ページ数が少ない企画書:
外資系エージェンシー時代で無駄な大量ページの企画書を作っていた反動もあるのかもしれませんが、広告業界を捨ててWebの黎明期にWebクリエイティブ業界に移ってからは、しばらくは自分のクライアントの仕事では、企画書は基本A3手書き1ページ、というスタイルでやってました。恵比寿にある某ビール会社のWeb担当者に気に入られていて、コンペではなく指名で様々なプロダクトのサイトとかを任されてきました。大手企業だし、担当の彼は東大出のキレ者で当時Web広告の業界では、気難しいことで有名なクライアント担当者だったので、他の広告代理店は相当リキを入れて立派な企画書を作っていたにもかかわらず、ボコボコに叩かれていたようですが、私は、彼には手書き1枚でほとんどのサイトの企画を出して、それで分かってもらえていました。
まあ手書き1枚でも、すごいパワーを入れて画期的なサイトプランニングしてましたし。
ということで自分の経験を交えてプランナーの世界について書いてみました。
知らないと簡単そうとか楽そうに見えるプランナーという仕事ですが、実際は相当大変だったりするのです。
企画コンペに次々に参加する会社のプランナーというのは、会社の命運にかかわってくるために、相当な重圧をうけることになるので、私のような楽天的な人間じゃなかったら、ストレスで体壊しても不思議ではない仕事と言えるでしょう。
その代償、というわけではないですが、オフィスでデスクにしがみついているだけなく、日頃からかなり自由に過ごさせてもらったりしてましたね。出歩いたり遊ぶこともプランニングには必要だ、ということで。 v(^o^)v
P.S.
今にして思うと、もしかしたら、私が30歳くらいから患った大病も、自覚してないだけで、プランナーとしてのストレスが原因だったのかも・・・(; ゚д゚)ノナンテコッタ・・・